紳士の迷走記

靴、時計、スーツ…欲望と徒然なるままに…

時計の選択 Part1

長年検討に検討を重ね続けて尚、手を出せなかったのが機械式腕時計である。そして、一念発起してある個体を購入したが、別のモデルを数ヶ月後に買い直すという愚行を犯してしまった。自戒の意も込めて赤裸々に、記録に残そうと思う。

 

スーツや靴であれば50万円も出せば最高級の品が手に入る。でも機械式腕時計ともなれば、50万円ではエントリークラスしか手が届かない。そして腕時計の新品価格は昨今の度重なる値上げで、ますます一般人の手に届きにくくなっている。

紳士を語るのであれば、腕時計は必須のアイテムだ。しかしこのように高価であるから何を買うべきか丸3年悩んだ。自分の中での拘りは3つあり、①新品であること(後に考えが変わる)、②そのブランドの歴史や理念に共感すること、③実用的であること(ケースはSS、最低6m防水、耐磁性)だった。

その時々の気持ちでコロコロと欲しい時計が変わっていったが、最終的にはIWCマーク20に落ち着いた。シンプルなデザインにベルトのクイックチェンジシステム、シリコン製ヒゲゼンマイ搭載による耐磁性、IWCとマークシリーズの歴史が決め手だった。ただ、ブティックで正規品を買うか並行品を買うか、そしてどのタイミングで買うか、悩む日々が続いた。

そして人生の転機が訪れた。結婚し、子宝に恵まれたのだ。高級機械式時計を買うにはまさにベストタイミング!その一方で独身時代のように好き勝手に出費もできなくなるので、買うならラストチャンスだった。決断を迫られた。

そして緊張しながらIWC銀◯ブティックの門戸を叩いた。店内は大盛況で男性のお客さんが多かった。ブティックに初めて入ったので、待っている間は人間観察に勤しんだ。延々と店員さんに質問を続ける人から職場の同僚と思しき人達に囲まれて買わされている人、後から入ってきた全身モンクレールのおじさんがソファに陣取るなど、カオスな状態。そして待つ事40分、ついに呼ばれた。「えっっと、マーク20の黒文字盤、ブレス仕様を購入しに来ました。(汗)」

残念ながらマーク20は大人気で受注に生産が追いついておらず、在庫がないとのこと。腹を括ってマーク20を予約した。

ところがその後4ヶ月、待てど暮らせど納品の連絡が来ない。毎月ブティックに足を運んで状況を聞いたが、納品未定の回答のみ。特に詳細な説明もしてもらえず、いつの間にか価格改訂もされていた。せっかく行っても接客時間はいつも2分以内だった。一番短い時で10秒。。。小生のような陰キャ&一見さんは相手にしないお店なのかなと勝手に拗ねてしまい、そのうち行かなくなった。(実際はこういう事例は少なく、商談中にコーヒーを出してもらえたり、ブティックのサービスは素晴らしいという口コミが多いので誤解無きよう。)

そうこうするうちに、妻の陣痛が始まり無事元気な男の子を出産した。時計は間に合わなかった。

入院中はほぼ毎日お見舞いと赤ちゃんに会いに病院に行き、退院後は育児と家事、仕事の3足の草鞋を履く日々が始まった。これが結構しんどかった。

予約をキャンセルして他の時計を選ぶべきか真剣に悩んだ。SNSでレビューや生の声を調べるとネガティブな投稿も散見された(特に精度と針飛び)。そして一部の顧客には革ベルトの個体を先に案内しステンレスベルトが入荷したら納品するという対応も取っていたらしい。(革ベルトは遅延のお詫びとしてサービスしていた。)正直もし革ベルトの個体があるのなら、何度も入荷の確認をしているのだから提案くらいしてくれても良いのにと思った。少し寂しい気持ちになった。

通常の精神状態であれば我慢も出来ただろうが、ストレスもあって心が折れてしまった。

そんな中で白羽の矢がたったのはGOのシックスティーズ パノラマデイトだった。特徴的なフォントと切削によるインデックス、パノラマデイトという独自技術に加えて裏スケで美しいムーブメントが一望できる素晴らしい個体。懸念は42mmというサイズと装着感と防水性、磁気帯び対策だった。また、半年以上も前に並行輸入店に入荷してそれからずっと動いていない個体だった。この時計は最初に記した拘りから逸脱しており、検討から過去外した時計だった。それを土台に上げたのだから少し自暴自棄になっていたと思う。あるいは、この時は妥協できると思ったのかもしれない。

都心に出られるチャンスも少ないため、取引先での打合せ後、中野の並行輸入店に寄り道して試着した。装着感とファーストインプレッションは大変良かった。腕に乗せて気持ちはGOに大きく傾いた。

そして勢いそのままに、数日後「えいや」で現金一括払いで購入した。当然マーク20はキャンセルした。

 

ところが、それで終わりとはならなかった。

 

つづく