紳士の迷走記

靴、時計、スーツ…欲望と徒然なるままに…

時計の選択 Part2

前回は、機械式時計を購入するまでの経緯を綴った。本望はマーク20だったが心が折れてしまい、グラスヒュッテオリジナルのシックスティーズ パノラマデイトを中野の某時計店で購入した。

ところが購入時の手続きから驚きの連続だった。1つは国際保証書の上書き。保証書には別の正規店のスタンプが押されていてその他は空欄(いわゆるオープンギャラ)だったが、その場で担当者が保証開始日を含め記入していた。そのお店の保証書ではなく、他の正規店名義の保証書なのでそれって大丈夫なの?と思ったが、何も言えなかった。帰宅後にその正規店をネットで調べるとオーナーは中華系で既に閉店していたことが分かった。。。2つ目は、箱の経年劣化。新品のはずなのに中の時計ケースが加水分解を起こしてボロボロと剥がれていた。。。並行品はこういう事例がよくあるのか不明だが、とても残念だった。特に保証書の部分はコンプラ的にも問題があるように感じた。

呆気に取られつつ無事支払いも終わったが、モヤモヤした気持ちで帰路に着いた。

家でもモヤモヤとした気持ちが残り、「本当にこれで良かったのか」と後悔の念に駆られた。上の2つから言える事、それはこの時計は確かに"新品・未使用品"ではあるが製造からそれなりに年月が経過している、という事だった。加水分解の状況から恐らく在庫期間は少なくとも3〜5年あったと思う。並行輸入品の新品は、新品であって新品ではないことをその時に身をもって理解した。新古品という矛盾した存在だと思った。

ただ、例えその推察が正しかったとしても時計そのものには満足していた。60年代のレトロな外観もサファイアクリスタルの裏蓋から覗くCal.39のムーブメントも素晴らしかったし不満はゼロだった。強いて言うならサイズ感がやはり大きかった事(装着感)と思う。

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↑夏に向けてHermann Staibのミラネーゼブレスもドイツから買い付けた。

GW突入と共に育休に入り、赤ちゃんのお世話と家事に専念する日々が始まった。いつもこの子を身につけて日々奮闘しつつ、夜になると時計を調べている自分がいた。素晴らしい時計が側にいるのに、なんて薄情だろうか。この子を買って感じたことは、時計との付き合いは恋愛に似ているということ。気付けば時計は恋人に近い存在になっていた。

でも自分には嘘をつけなかった。IWCへの未練が消えなかった。毎晩遅い時で夜中の3時まで公式サイトや時計のレビュー動画、時計ブログ、情報サイト、時計専門店の在庫やオークションサイトを眺める日が続いた。ただ、目的もなく時計を調べる毎日にだんだん疲れてしまい、この気持ちをどうにかしなければと思い始めた。

しかし、既に80万円近いキャッシュを払っておりもう一本買うのは家計的に無理だった(妻の激怒も買うだろう)。また、個人的に無金利でもローンは反対であり、お金の使い方は身の丈に合う必要がある、という考えなのでどうするべきか悩む毎日を送った。辿り着いた結論は、泣く泣くGOを売却して本当に満足いく時計を吟味して買う事だった。これをもってモヤモヤした気持ちに終止符を打ちたかった。正直、ものすごく辛い決断だった。

この時点で新品へのこだわりは消えていた。新品である事よりも、①きちんとメンテナンスされていること(直近でOH済み)、②真贋鑑定がされていること、そして③外装の状態が良いもの(研磨痩せや傷が少ない)。この3つが担保されていれば、あとはPart1でも記したブランドの理念への共感や実用性、そして価格との折り合いをどうするかだった。付属品の類はどうでも良かった。フリマでオープンの保証書や箱など付属品も売られているので、後から付属品が揃えられた個体である可能性もあるからだ。時計の世界は何でもありで、中古車の世界に似ていると思った。

そしてもう一つ、どのお店で買うかも重要だと思った。例え有名店であっても落とし穴はあるし、きちんとした時計専門店が望ましい。

マーク20には戻らないと心に決めていたのもあり、IWCに代わる時計も探した。STOWA, Laco, Sinn, Damasko, Wempe, Tutima…

どのブランドも素晴らしいが、響かなかった。やはり本心はIWCが一番好きで自分に嘘をついてはいけないと思った。特にマーク12とマーク15は以前からの憧れだった。マーク20を当初買おうと思ったのも中古という選択肢がなかったからだ。以前中古車で痛い目にあったのもあり、中古品に対して変な偏見があったのだと思う。でも時計を所有した事と時計を調べる中で考え方が変わった。むしろ中古にこそ解があると思った。マーク12,15の在庫探しが始まった。

 

つづく